思春期以後、特に30歳、40歳台にさしかかると、頭皮のフケが多 くなったり、大きめのフケが頭皮にこびりついたりする人がいらっ しゃいます。また、顔面でも眉毛や、鼻の両脇、鼻唇溝部、こめか みや耳の裏側が赤くなったり、油っぽい細かい皮がこびりついたり してくることもあります。かゆみはあまりありません。
実はこれらは脂漏性皮膚炎という皮膚の病気の代表的症状です。放 置してもなかなか治ってくれません。 軽症の場合はただの乾燥肌 やフケ症と思って、医療機関を受診しない人も多いかと思います が、放置してどんどんひどくなると、頭全体がフケだまりになっ て、硬い皮で覆われる場合もあります。また、顔や頭だけでなく首 周り、前胸部、上背部、腋の下、足の付け根などにも周囲に油っぽ い皮膚のはがれたものがこびりついた赤い円形の斑が出てくること もあります。
これらはいずれも脂漏部位といわれる皮脂の分泌が盛んな部位であり、共通の症状としては赤く なることと、それに伴って細かいはがれかけた皮膚が付着することです。かゆみはないか、あっ ても軽微です。頭のフケ症はまだ炎症の少ない脂漏性皮膚炎の初期の症状と考えられています。 一度症状が出てくると慢性的な経過をとることが多く、自然に治ることは困難ですので、一度 皮膚科を受診されることをお勧めします。
脂漏性皮膚炎の原因はその詳細はまだ明確にはわかっていませんが、遺伝的要因、環境的要因、精神的ストレスなどが関与した多因子疾患と考えられています。
近年は、皮膚に常在しているマラセチアというカビ(真菌)の一種が発症に関与していることが認識されており、重要な症状の悪化因子と考えられています。マラセチアは脂腺から分泌される皮脂を栄養源としているため、皮脂の量が多くなるとマラセチアも増殖します。
ここで少し皮脂について説明したいと思います。
皮脂は脂腺から分泌されますが、脂腺は手のひらと足の裏以外の全身の皮膚に分布して、毛穴の上部に開口しています。この脂腺が発達して多数集まった場所を先程の脂漏部位といいます。分泌された皮脂は皮膚表面で汗などの水分と混合して、皮膚表面をコーティングする膜を形成します。これを皮脂膜といいますが、弱酸性を示し殺菌作用を持つため、有害物質の侵入や感染防御に役立っています。
皮脂の成分の1つであるトリグリセリドはマラセチアなどの皮膚の常在菌によって遊離脂肪酸に分解されますが、この遊離脂肪酸が皮膚に刺激を与えることが 脂漏性皮膚炎発症の原因の1つと考えられています。また、増殖したマラセチア自体も皮膚に炎症を起こすと考えられています。
最後に、脂漏性皮膚炎の治療について説明します。
基本的にはステイドロの外用が効果的であり、短期間の外用で改善がみられます。顔面や体幹には軟膏を、頭皮には液体のローションを外用します。
注意点は、脂漏性皮膚炎の症状の出やすい顔面や首は皮膚が薄い部位であり、長期使用に対する ステロイド外用の副作用を考慮して、弱めのステロイドを選択する必要があります。 ステロイドについての詳しい説明は、“ステロイド外用剤について”をご覧ください。
副作用の観点からもステロイドを漫然と塗り続けることは避けるべきであり、症状が改善すれば 通常は外用を中止します。
ところが、脂漏性皮膚炎では外用を中止するとしばらくして症状が再発してくることがよくあり ます。
そこで最近はマラセチアの関与も考慮して、カビに効く抗真菌外用剤もよく使用されます。ステロイドと比べ、効果が出るまでに時間がかかることや、重症例には効果が乏しい印象がありますが、ステロイドより局所的な副作用がほとんど見られないことから、軽症例や症状が落ち着いた後の再発予防によく使用されます。また、皮脂を減少させる効果が期待されるビタミンB2やB6を内服する場合もあります。
以上が基本的な薬物療法です。
もう一つ大切なのは、日常生活の見直しです。脂漏性皮膚炎は、生活習慣の改善で、かなり予防 できる疾患なのです。
まず適切な洗顔(基本は朝晩の1日2回)、洗髪(基本は毎日)によって脂漏部位の清潔に保つ ことが発症の予防や症状の改善につながります。また、最近はマラセチアなどのカビに効く抗真菌剤が含まれたシャンプーや石鹸(持田製薬:コラージュフルフルシリーズ)も医薬部外品として薬局で市販されていますので、毎日の使用により予防効果が期待できます。
また、食生活にも注意が必要です。ビタミンB群を多く含む食品(レバー、しじみ、牛乳、卵、 ほうれん草、トマト、キャベツ、シイタケなど)を積極的にとるようにして、皮脂分泌を高めたり、 皮膚に刺激をもたらす、脂肪、糖分、コーヒー、アルコール、香辛料などはとりすぎないように注意します。
そして、ストレス、過労、睡眠不足なども増悪因子となるので、規則正しい生活を心掛けるよう努力 することも大切です。