レーザーまたはフラッシュランプなどの光を用いた脱毛は、実はまだ歴史が浅く、日本に初めて紹介されたのは1997年のことです。それまでは絶縁針を用いた電気凝固法(針脱毛)が主流でしたが、1983年に報告されたselective photothermolisys(SP)の原理を応用したレーザー脱毛が発展して、現在では様々な種類のレーザーが登場しています。2000年以降はレーザー光ではない広帯域の光を利用したフラッシュランプによるIPL脱毛が登場し、近年ではSP理論とは異なるRFと言われるラジオ波を用いた脱毛も登場しています。
当院では最も歴史があり、安定した効果・実績のあるロングパルスアレックスレーザーの最新機を用いています。ここでは、レーザー脱毛の原理を中心に説明しますが、そのためには毛の構造や発毛のしくみを理解する必要があります。
まず、毛の構造ですが、毛の皮膚に埋まっている部分のことを毛包といいます。以下に毛包の断面図を示しますが、この中で特に重要な部位は、毛隆起という中ほどの少し盛り上がった部分と、最も下端の毛球とその内部にある毛乳頭と、毛乳頭を取り囲む毛母と言われる場所です。毛隆起は立毛筋という毛を立たせる筋肉が付着している部位であり、バルジ領域とも言われます。ここに毛包の幹細胞が存在することがわかっています。また、毛母は皮膚の毛細血管から毛を作る材料を受け取ったり、毛の黒さのもとであるメラニンを産生するメラノサイトが存在しており、毛にメラニンを供給しています。
ところで、毛は抜けてはまた生えてくるということを繰り返していることは御承知と思いますが、毛は「成長期」「退行期」「休止期」という決まった3つの生え変わりのサイクルを繰り返しています。この生え変わりのサイクルを「毛周期」と呼びます。
実は毛周期において毛の縦断面をみたときに変動しているのは毛隆起より下の部分だけであり、毛隆起より上の部分は変化していません。毛包の下端は休止期に最も浅いところにあり、成長期に入ると徐々に下降して皮下脂肪層まで達します。しばらくそこにとどまりますが、退行期に入ると徐々に上昇して毛隆起の部分にくると再び休止期に入ります。
毛周期について
この毛周期は生えている場所によって異なり、睫毛や眉毛では3ヶ月程度と比較的短いものもあれば、女性の髪のように5年前後と長いものまで様々です。また、この毛周期によって、伸びる長さや速度が決まってきます。
下表に部位別の毛周期の割合を示しましたが、頭の髪と違ってわきや手足の毛は成長期よりも眠っている毛(休止期)の割合のほうが多いことがわかります。
様々な部位別の毛周期
毛包の再生にはバルジ領域にある「毛包幹細胞」と毛乳頭にある「毛乳頭細胞」が必要であると考えられています。毛包の再生は“バルジ活性化説”で説明されます。
バルジ活性化説: | 休止期になった毛が再生するのは、退行期から休止期にかけて毛乳頭が最もバルジ領域に接近するため、毛乳頭からのシグナルによりバルジの毛包幹細胞が活性化され次の成長期が開始される。 |
永久脱毛を得るためには、毛包再生の主役である“毛包幹細胞”と“毛乳頭細胞”の両者が変性・破壊される必要があります。特に、毛包幹細胞の変性が重要であり、レーザー脱毛においてその効果は、いかにバルジ領域を変性させるかにかかってくることになります。
レーザー脱毛治療器の作用原理も、しみの治療に用いるレーザーと同様にSP理論に基づいています。(SP理論についてくわしくは、「レーザー治療について」をご参照ください)
照射された光がターゲットに吸収されて熱エネルギーに変換されて、その熱の拡散によって治療されます。レーザー脱毛器のターゲットは毛根、毛幹内の“メラニン色素”です。メラニン色素が豊富にあるのは「成長期」であり、毛が退縮する「休止期」にはメラニン色素の量も減少するため、レーザー脱毛の効果があるのは「成長期」のみです。前述した「様々な部位別の毛周期」の表をみてわかるように、各部位には一定の割合で休止期の毛がありますので、レーザー脱毛を1回やってもこれらの休止期の毛は生き残ることになります。つまり、治療には複数回かかることになります。
また、日焼けなどで表皮内にメラニン色素が多量に存在する状態では、レーザー光はこのメラニンにも吸収されるため、脱毛の効果が減弱するうえに、表皮内の熱傷害が起こり熱傷を来す可能性があるため、脱毛期間中の日焼けは極力避ける必要があります。